パキスタンにおける栄養問題は、単なる健康上の課題を超え、経済インフレ、不十分な統治(ガバナンス)、そして気候変動が複雑に絡み合った「多角的な危機」となっています
1. 深刻な栄養不良の現状
パキスタンは世界でも有数の発育不全児が多い国の一つです
発育不全の蔓延: 5歳未満児の発育不全(Stunting)の有病率は37.6%(2018年データ)に達しており、南アジア諸国の中でも極めて高い水準にあります
。 身体・認知への長期的影響: 成人の約44%が、子供時代の栄養不良に起因する身体的・認知的影響を受けている可能性が指摘されています
。 高い死亡率: 栄養不足による免疫力低下は、感染症リスクを高めています
。2023年のデータでは、新生児死亡率(1,000人当り38人)や5歳未満児死亡率(同59人)において、近隣諸国と比較しても著しく高い数値を示しています 。 国名
割合%
データ取得年
データ元
Bangladesh
23.6
2022
World bank Data[1]
Bhutan
17.9
2023
World bank Data
India
35.5
2020
World bank Data
Maldives
15.3
2017
World bank Data
Nepal
24.8
2022
World bank Data
Pakistan
37.6
2018
World bank Data
Sri Lanka
10.5
2024
World bank Data
発育不良の有病率、年齢別身長Prevalence of stunting, height for age(5歳未満)
2. 背景にある経済的・社会的要因
栄養状態を悪化させている最大の要因の一つが、近年の急激な物価高騰(インフレ)です
食糧インフレの直撃: 小麦粉や野菜などの基本食品の価格が23週間連続で上昇しており、低所得層は十分な食事を確保することが困難になっています
。 貧困の拡大: 世界銀行によれば、国内の貧困率は44%に達しています
。 医療・看護体制の危機: 深刻なのは食糧だけではありません。医療現場では、低賃金や劣悪な待遇を背景に、医師や看護師の国外流出(ブレイン・ドレイン)が過去最高水準で続いており、現場の「スキルの空洞化」が深刻な問題となっています
。
3. 食品衛生と安全な水の不足
摂取する食品の「質」も大きな課題です
不純物混入食品: 有害な化学物質を含むミルクや質の悪い油、着色料を使用した香辛料などが当局により大量に押収されています
。 水と衛生: 安全に管理された飲料水を利用できる人口は45%に留まっています
。停電などによるインフラの停止は水不足を招き、下痢性疾患などを通じて二次的な栄養失調を誘発しています 。
4. 改善に向けた動きと今後の展望
こうした厳しい状況に対し、各地で対策も始まっています。
州政府の取り組み: パンジャーブ州では公立学校での栄養強化ミルク提供や、食料品を安価に提供する「サフーラト・バザール」の設置が進められています
。 国際社会の支援: ドイツからの1億1400万ユーロの支援パッケージや、ユニセフと連携した児童福祉の強化など、国際的な協力体制も構築されています
。
パキスタンの栄養問題は、「経済的アクセス」「食品の安全」「慢性的な発育不全」の3つが大きな柱となっています
未来を担う子どもたちの健康を守るため、持続的な経済安定とガバナンスの改善が急務となっています。
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