2026年7月28日火曜日

見過ごされる子どもたち:東地中海地域・パキスタンにおける「ゼロ・ドーズ」の現状と風疹排除への挑戦

 世界保健機関(WHO)が掲げる「予防接種アジェンダ2030」において、一度もワクチンを受けていない「ゼロ・ドーズ(未接種)」の小児への対応は最優先課題です。しかし現在、東地中海地域およびパキスタンでは深刻な医療格差が発生しています

1. 拡大する免疫ギャップの背景

2019〜2024年の5年間で、同地域のゼロ・ドーズの5歳未満児は累計1,230万人に達しました。紛争や貧困、医療制度の脆弱さに加え、COVID-19による混乱が追い打ちをかけました。結果として、麻疹第1期(MCV1)の接種率は80%に落ち込み、集団免疫に必要な95%の基準を大きく下回っています

2. パキスタンの「レッドアラート」とガバナンスの失敗

2024年時点で、地域の未接種児の90%がスーダン、イエメン、アフガニスタン、パキスタン、ソマリアの5カ国に集中しています

その中でもパキスタンは、未接種の乳幼児が65万1,000人以上に達し、パキスタン医師会(PMA)が緊急事態(レッドアラート)を発令しました。他4カ国のような激しい紛争がないにもかかわらず医療が崩壊している主因は、「行政上の怠慢」と「ガバナンスの失敗」であると強く批判されています。具体的には、縁故主義による人事、予防接種プログラム(EPI)の弱体化、遠隔地への供給網構築の失敗などが挙げられています

3. 風疹・先天性風疹症候群(CRS)排除への転換期

妊娠初期の妊婦が風疹に感染すると、子どもに重篤な障害(難聴や心疾患など)を引き起こす「先天性風疹症候群(CRS)」のリスクが生じます

2024年、WHO予防接種諮問委員会(SAGE)は「麻疹接種率80%以上でなければ風疹ワクチン(RCV)を導入できない」という従来の制限を撤廃しました。これにより、アフガニスタンなど未導入の国々にとって早期導入の絶好の機会が訪れています。パキスタンはすでにRCVを正式導入し地域の接種率向上を牽引していますが、今後は国内の地域格差や遠隔地の未接種児へどう届けるかが課題です

4. 危機打開に向けた提言と要求

公衆衛生の危機を克服するため、WHO地域委員会やPMAは政府に対して以下の抜本的対策を求めています

  • 地域共通目標(2030年):IRMMAフレームワークを活用して未接種児を50%削減し、未導入国へのRCV迅速導入と監視体制強化を進めること

  • パキスタン国内の改革:EPI資金の即時監査による不正排除、定期予防接種の「国家安全保障上の優先事項」化、GIS(地理情報システム)を用いた未接種児のデータ追跡、および現場医療従事者の処遇・安全の改善

まとめ

東地中海地域やパキスタンにおけるワクチン未接種児の削減は、単なる医療の問題ではなく、行政ガバナンスの回復と直結しています。データに基づいた効率的なアプローチと持続可能な財務基盤を築き、すべての子どもに予防接種を届ける包括的な取り組みが急務です

参考文献

2026年7月23日木曜日

パキスタンが議長国へ:第9回OIC女性閣僚会議と「イスラマバード宣言」が示す未来


今回の記事では、イスラム諸国における女性支援とエンパワメントをめぐる、非常に重要な国際会議のニュースをお届けします。


2026年7月12日から2日間にわたり、パキスタンの首都イスラマバードにあるジンナー・コンベンション・センターにおいて、「第9回OIC女性閣僚会議(9th Ministerial Conference on Women)」が開催されました

今回の会議のテーマは、「OIC諸国における女性の社会経済的および政治的エンパワメント:課題と今後の道筋(Socio-Economic and Political Empowerment of Women in the OIC Countries: Challenges and Way Forward)」です。57の加盟国から閣僚や政府高官を含む約190名(うち代表団は約125名)が集まり、熱心な議論が交わされました

この会議がなぜ今、パキスタンで開催されたのか、そしてどのような成果が得られたのか、詳しく解説していきます。

パキスタンが議長国に就任:その意義と「ジェンダーギャップ」のリアル

パキスタンは今回の会議をもって、エジプトからバトンを受け取る形で、今後2年間のOIC女性閣僚会議の議長国(チェアマン)に正式に就任しました

これはパキスタンにとって大きな名誉であり、外交的なイニシアチブを発揮するチャンスです。一方で、パキスタン国内のジェンダーをめぐる状況は依然として厳しい課題に直面しています。

  • 低い世界順位: 世界経済フォーラム(WEF)の「グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2025」において、パキスタンは148カ国中最下位に甘んじています

  • 深刻な賃金格差: 国際労働機関(ILO)のデータによると、パキスタンで雇用されている女性の月給は、男性よりも約30%低いのが現状です

このような自国の課題を抱えつつも、パキスタン政府は女性支援に向けた取り組みを積極的にアピールしています。会議の主賓として出席したユサフ・ラザ・ギラニ参議院議長は、国内で数百万人の女性の経済的安定と女子教育を支えてきた「ベナジール所得支援プログラム(BISP)」や「ワシーラ・エ・タリーム(Waseela-e-Taleem)」などの具体的な成果を紹介しました

議長国としての役割を引き受けたことは、パキスタン国内のジェンダー改革をさらに加速させるための強力な外圧・動機づけになると期待されています。

会議の最大の成果:「イスラマバード宣言」とデジタル格差の是正

今回の会議は、単なる議論の場で終わることなく、今後の具体的なロードマップとなる「イスラマバード宣言(Islamabad Declaration)」の採択をもって閉幕しました

特に今回の宣言において強く打ち出されたのが、「女性のデジタル格差の解消(Bridging the Gender Digital Divide)」です。現代の経済活動において、ITやインターネットへのアクセスは、女性が自立するための必須インフラとなっているからです

1. 「デジタル・インクルージョンに関するイスラマバード・イニシアチブ」の創設

OIC加盟国における女性や少女のデジタルリテラシーの向上、デジタル起業、STEM教育、AI(人工知能)スキルの習得、サイバーセキュリティ対策などを支援するためのプラットフォームが立ち上げられました

2. パキスタンが示したデジタル分野での劇的な成果

パキスタンのシャザ・ファティマ・ハワジャIT・電気通信相が報告したデータは、出席した加盟国を驚かせました

  • 世界最速のペースでデジタル男女格差を縮小: モバイルインターネット利用における男女格差が、以前の35%から、2026年の報告書ではわずか8%へと劇的に減少しました。これは世界で最も速いペースでの格差解消です

  • モバイルアクセスの向上: 女性のモバイルインターネット普及率は、過去2年間で33%から45%に増加しました。政府は民間企業の協力も得て、女性に1,000万枚の無料SIMカードを配布するなどの直接的な支援も実施しました

このように「モバイルやデジタルを活用して女性を社会・経済活動に引き込む」というモデルは、他のOIC加盟国にとっても大きな参考事例となりました。

多岐にわたる合意項目

イスラマバード宣言では、デジタルの他にも重要な合意が盛り込まれました。

  • 経済的・金融的な自立: イスラム金融やマイクロファイナンス、デジタル金融サービスを活用し、女性が起業しやすい環境を整えること

  • 暴力や嫌がらせからの保護: 近年深刻化しているネット上の嫌がらせ(サイバーハラスメント)やオンライン上の虐待など、あらゆる形態の暴力に対抗する措置を強化すること

  • 紛争地域への連帯: パレスチナや、インド占領下のジャム・カシミール(IIOJK)に暮らす女性や少女たちに対する人道的・経済的・教育的支援を呼びかけること

研究の視点から:言葉(宣言)から「具体的な実践」へ

OICの事務局次長であるタリグ・アリ・バヒート大使は、閉幕の挨拶で非常に本質的な指摘を残しています

「真の成功は、採択された決議そのものではなく、それをいかに効果的に実行し、測定可能な成果を達成できるかという、私たちの共同のコミットメントにかかっています。」

研究者の視点からも、こうした国際組織によるハイレベルな合意(宣言)が、加盟各国の法整備や予算編成にどう反映され、特に保守的な農村部や地域社会に暮らす女性たちの日常生活をどのように変えていくのかを、今後追跡していくことが極めて重要です。

パキスタンがこれから2年間、この巨大なイスラムのプラットフォームをどのように率いていくのか、そのリーダーシップに注目が集まります

参考文献・ウェブサイト(資料より)

今回の会議の進捗や、採択された宣言の詳細については、以下の公式サイト等から追跡が可能です。

Dawn紙の報道(2026年7月12日)会議の開幕と技術レベルでの事前協議について詳細に報じています。Dawn.com - 2-day OIC moot on women empowerment begins in IslamabadThe News International紙の報道(2026年7月14日)イスラマバード宣言の具体的な中身や、パキスタンのデジタル格差解消のデータが詳細にまとめられています。The News - OIC states urged to bridge gender digital dividehttps://www.thenews.pk/print/1425979-oic-states-urged-to-bridge-gender-digital-divideOIC(イスラム協力機構)公式サイト採択された「イスラマバード宣言」の原文や各決議が確認できます。https://www.oic-oci.org/

見過ごされる子どもたち:東地中海地域・パキスタンにおける「ゼロ・ドーズ」の現状と風疹排除への挑戦

  世界保健機関(WHO)が掲げる「予防接種アジェンダ2030」において、一度もワクチンを受けていない「ゼロ・ドーズ(未接種)」の小児への対応は最優先課題です 。しかし現在、東地中海地域およびパキスタンでは深刻な医療格差が発生しています 。 Dawn紙、2026年7月16日投稿記...