今回は、南アジア6カ国(インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、ブータン)における「リハビリテーションを含む医療サービス」の現状について、JICAの国別障害関連情報を参考に共有させていただきます 。
各国はそれぞれ独自の行政構造や地理的要因を抱えており、リハビリテーションへのアプローチも「医療モデル」から「社会モデル」、あるいは「地域ベースのリハビリ(CBR: Community Based Rehabilitation)」まで多岐にわたっています 。それぞれの国の特徴を詳しく見ていきます。
各国の現状と特徴
1. インド:包括的制度と専門拠点の整備
インドでは、社会正義エンパワメント省(MSJE: Ministry of Social Justice and Empowerment)が中心となり、医療・社会・教育・職業にまたがる包括的なリハビリ制度が整備されています 。
特徴: 全国的な専門拠点として「国立リハビリテーション研究所群」(身体、整形外科、視覚、知的、聴覚、重複障害など)が機能しています 。
構造: 医療リハビリは保健省とも連携していますが、福祉省側が中心を担うため、医療モデルと社会モデルが併存する構造となっています 。
課題: 州間での格差が大きな課題です 。
2. スリランカ:医療モデル主導の標準化
スリランカでは、保健省の青年・高齢者・障害者部(YEDD: Youth Elderly and Disabled persons Department)が医療リハビリの中軸を担っています 。
特徴: YEDDが早期介入や理学療法、CBRの強化などを担当しています 。「2014–2018国家リハビリテーションガイドライン」によって医療リハビリの標準化が進められてきました 。
構造: サービスは比較的中央集権的であり、医療モデルの色合いが強いのが特徴です 。
課題: 財政的な制約が今後の課題となっています 。
3. ネパール:山岳地帯に対応する地域統合型アプローチ
ネパールでは、保健人口省と女性子ども社会福祉省(MOWCSW: Ministry of Women, Children and Social Welfare)がリハビリ業務を分担しています 。
特徴: 2017年の障害者権利法以降、医療リハビリと地域リハビリ(CBR/CBID: Community Based Inclusive Development)の統合的アプローチが強化されました 。
構造: 地理的に山岳地帯が多いことから、CBRが制度的に強く重視されています 。
課題: 地理的要因も絡む地域格差の解消が求められています 。
4. バングラデシュ:調査と診断の一体化と発達障害支援
バングラデシュでは、社会サービス局(DSS: Department of Social Service)と保健・家族福祉省が共同で医療リハビリを実施しています 。
特徴: 全国障害調査に医師や理学療法士が参加し、診断とリハビリを一体的に扱う体制が構築されています 。また、「神経発達障害保護信託(2013)」により、自閉症や発達障害児の早期療育・医療リハビリが制度化されている点も先進的です 。
構造: 医療リハビリ自体は比較的発達しています 。
課題: 都市と農村の格差が非常に大きいという問題を抱えています 。
5. パキスタン:地方分権による制度の分断
パキスタンでは、国立リハビリテーション医学研究所(NIRM: National Institute of Rehabilitation Medicine)が医療リハビリの中心的な存在です 。
特徴: CBR(地域ベースのリハビリ)については、NGOが主導する形で広がっています 。
構造と課題: 2010年の地方分権化に伴い、障害関連政策の管轄が州政府へと移りました 。その結果、州ごとに制度が分裂してしまい、公的医療リハビリの整備の遅れや、統一基準の欠如という構造的な課題に直面しています 。
6. ブータン:プライマリー・ヘルスケア(PHC)への組み込み
ブータンでは、保健省(MoH: Ministry of Health)の管轄のもと、障害ケアが提供されています 。
特徴: リハビリサービスは、プライマリー・ヘルスケア(PHC: Primary Health Care)の枠組みの中で基礎的なものとして提供されています 。国勢調査においてワシントングループ質問票を採用するなど、障害の把握については国際基準に準拠しています 。
構造と課題: 人口規模が小さいため専門的なリハビリ施設は不足していますが、そのぶん学校・地域・家族を巻き込んだ柔軟な支援が重視されています 。
6カ国の比較まとめ
各国の主担当機関、特徴、および課題を一覧表にまとめました 。
おわりに
南アジア6カ国の医療リハビリテーションの構造を俯瞰すると、以下のようなグラデーションが見えてきます 。
インド・スリランカ: 制度的な整備が最も進んでいるグループ
ネパール・バングラデシュ: CBRと医療の統合・連携を模索しているグループ
パキスタン: 地方分権の影響により制度的な分断が見られるケース
ブータン: 小規模ではあるものの、PHCを中心とした安定的なコミュニティ支援を行うケース
一言で「南アジア」といっても、それぞれの国が置かれた政治・地理的背景によって、障害者支援のアプローチや課題は大きく異なります 。今後の国際開発や支援のあり方を考える上でも、こうした各国の構造的特徴を理解しておくことが極めて重要だと言えるでしょう 。
参考文献
国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 インド共和国』令和3年2月.
国際協力機構(JICA)スリランカ障害者の就労支援促進プロジェクト専門家チーム(2024)『国別障害関連情報 スリランカ民主社会主義共和国』令和6年11月.
国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ネパール連邦民主共和国』令和3年2月.
国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 バングラデシュ人民共和国』令和3年2月.
国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 パキスタン・イスラム共和国』令和3年2月.
国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ブータン王国』令和3年2月.