今回の記事では、アフリカにおける子ども政策の最前線に焦点を当て、2024年にケニア政府が国連子どもの権利委員会に提出した最新の「第6回・第7回合同国家報告書」の概要についてご紹介します。
ケニア共和国は1990年7月30日に「子どもの権利条約(CRC)」を批准して以来、児童福祉の向上に努めてきました。今回の報告書は、2016年から2022年までの法的、政策的、制度的、そして予算的な取り組みをまとめたもので、労働・社会保護省および子どもの権利サービス国家評議会(NCCS)が中心となり、政府機関、市民社会組織(CSO)、そしてオンライン調査を通じて参加した子どもたちの意見を反映させて作成されました。
対象期間中に発生したCOVID-19パンデミックによる多大な影響を受けつつも、ケニアがどのように子どもの権利を守るための改革を進めてきたのか、詳しく見ていきましょう。
1. 国内法の包括的改革と基盤の整備
ケニア政府は、国内法を子どもの権利条約の精神に適合させるため、以下のような大胆な包括的改革を行っています。
法的・政策的枠組みの刷新: 従来の児童法を一新し、より強固な権利保障を目指した「2022年児童法(Children Act, 2022)」が制定されました。また、「子どもに対する暴力国家対応計画(2019-2023)」や「ケニア国家ケア改革戦略(2022-2032)」などの重要な国家戦略が次々と策定されています。
国家予算の積極的な配分: 国家予算における社会セクターへの配分割合は、国レベルで27%、地方の郡(カウンティ)レベルで41%を占めるまでに拡大しました。さらに、UNICEFの協力を得て「児童保護システムコストモデル」を開発し、データに基づいた効果的な予算編成を行っています。
モニタリングとデータ収集の強化: ケニア国家人権委員会(KNCHR)が子どもの権利侵害に関する苦情管理システム(ホットライン等を含む)を運用し、独立した監視を行っています。また、「児童保護情報管理システム(CPIMS)」の導入により、年齢・性別・地域ごとに細分化されたデータ収集が強化され、2019年の国勢調査では、初めてインターセックスの児童も人口統計に反映されるようになりました。
2. 「子ども」の定義の見直しと刑事責任年齢の引き上げ
ケニア憲法第260条において、子どもは「18歳に達していない個人」と明確に定義されています。
今回の法的改革における大きな進展として、「2022年児童法」により刑事責任年齢が従来の8歳から12歳へと引き上げられたことが挙げられます。なお、婚姻に関しては「2014年婚姻法」によって管理されています。
3. 子どもの権利における「4つの一般原則」の適用
条約の根幹をなす一般原則についても、具体的な進展が見られます。
非差別の徹底: 憲法第27条の平等と非差別の精神に基づき、高等裁判所の判決によって「婚外子であっても出生登録に父親の氏名を記載する自由」が認められました。また、アルビニズム(白皮症)を抱える子どもへの支援、女子児童の就学を維持するための生理用品無料支給、若年母の復学を促す「学校再入学ガイドライン」が運用されています。さらに、これまで無国籍状態にあった複数のコミュニティに対して、法的な国籍が与えられました。
子どもの最善の利益(BIC): 憲法第53条第2項に基づき、子どもに関するあらゆる事項で最優先されています。司法の現場でも、裁判所付設調停などの「代替的紛争解決」や「代替的司法システム(AJS)」ポリシーが導入され、子どもが正式な刑事手続きに巻き込まれるのを防ぐ「ダイバージョン(保護処分への切り替え)」の枠組みが推進されています。
子どもの意見の尊重: 全ての郡(カウンティ)に「ケニア子ども議会(KCA)」が設置され、障害児や難民児を含む子どもたちが、自身の未来に関わる意思決定に参加する機会が保障されています。
4. 市民的権利・自由の拡大と「子どもに対する暴力」への挑戦
出生登録率は大きく向上しており、5歳未満の登録率は2016年の64.1%から2022年には80.6%へと上昇し、全体では82.9%に達しています。医療機関での出生登録の試験運用やモバイル登録の展開が功を奏しています。また、「能力基準カリキュラム(CBC)」の導入により、子どもたちが自己の適性に応じた進路を選択する自由が拡大しました。
一方、子どもに対する暴力への対策も強化されています。
法執行と相談窓口の強化: 各警察署へ「児童保護ユニット(CPU)」や、総合ケアを提供する「ポリ・ケア・センター」の設置が進んでいます。また、無料のヘルプライン(116や1195)が運用されています。
デジタル社会への対応: インターネットの普及に伴う「オンライン子どもの性的搾取・虐待(OCSEA)」への対策行動計画(2022-2026)が新たに策定されました。
有害な伝統慣習の撲滅: 女性器切除(FGM)や児童婚の撲滅は国家の優先事項であり、専門の起訴ユニットの設置等により、FGMの有病率は2014年の21%から2022年には15%へと確実に低下しています。
5. 家庭環境の保護と「脱施設化(孤児院からの移行)」への大転換
ケニアの福祉政策において今最も注目すべきは、代替ケアにおける「脱施設化」への大転換です。
「ケニア国家ケア改革戦略(2022-2032)」に基づき、子どもを安易に慈善児童施設(CCI、いわゆる孤児院)へ入所させるのではなく、親族ケアや里親、養子縁組などの地域社会を基盤としたケアへ移行させる取り組みが進められています。これに伴い、2017年より新しい慈善児童施設の登録は一律停止されています。また、貧困を理由とする家族の分離を防ぐため、孤児・脆弱児童(OVC)への現金給付など、経済的支援プログラムも実施されています。
6. 障害児支援と基礎的保健の進展
障害児への配慮: 2022年児童法に権利が明記されたほか、教育面(CBC)において特別なニーズを持つ学習者向けの差別化されたカリキュラムが提供されています。
保健サービスの向上: 「2017年保健法」に基づきユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の全国展開が進行中です。その結果、5歳未満児の全予防接種率は79.8%に向上し、乳幼児死亡率は2014年の1,000出生あたり52件から、2022年には41件へと減少しました。
感染症対策と薬物対策: 小児結核における子ども向けフレンドリーな薬剤の導入や、母子感染予防(PMTCT)のための抗レトロウイルス薬(ARV)の無料提供により、HIV新規感染の抑制に大きな成果を上げています。
まとめ
2016年から2022年にかけてのケニアの取り組みは、単なるスローガンにとどまらず、刑事責任年齢の引き上げや孤児院の新規登録停止といった、ドラスティックな法的・制度的改革を伴っている点が非常に印象的です。
COVID-19という世界的な逆風がありながらも、予算の適正配置やデジタル化に合わせたオンライン対策など、時代に即した児童福祉の形を模索しているケニアの姿勢は、他の発展途上国、ひいては国際社会全体にとっても重要なモデルケースになるのではないでしょうか。
今後も、これらの政策が地域レベルでどのように実を結んでいくのか、注視していきたいと思います。
参考文献
Republic of Kenya. (2024). The Republic of Kenya 6th and 7th state party report to the UNCRC Committee – Geneva: 2016 – 2022. National Council for Children’s Services.