2026年6月18日木曜日

パキスタン経済白書2025-2026から見る「子どもの健康」

 近年、開発途上国における保健・栄養セクターの動向は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成において重要な焦点となっています。今回は、最新の「パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026)」から、特に「子どもの健康」に着目した重要なデータと取り組みについて解説します

パキスタンにおける子どもの健康をめぐる状況は、予防接種の普及、栄養改善の多角的アプローチ、そして法的保護の強化という3つの側面から、大きな進展を見せています

1. 予防接種の拡大と死亡率の低下

近年のパキスタンにおける健康・栄養セクターの最も顕著な成果の一つが、予防接種率の向上です

  • 予防接種率(Immunization coverage)の上昇: 近年、予防接種率は73%にまで上昇しました

  • 死亡率の低下: 予防接種の拡大に伴い、生命の危機に瀕しやすい新生児死亡率(Neonatal mortality rate)および乳児死亡率(Infant mortality rate)の低下という明確な成果が見られています

基礎的な医療アクセスの改善が、子どもの生存率の向上に直結していることがデータから伺えます

2. 多角的な「母子栄養サービス」の強化

子どもたちの健やかな成長を阻む大きな課題である「発育阻害(Stunting)」、微量栄養素の欠乏、そして食料不安に対し、パキスタン政府は複数のセクターが連動した強力な栄養プログラムを継続しています

連邦政府主導の具体的なプログラムとしては、以下のようなイニシアチブが強化されています

  • ベナジール・ナショヌマ・プログラム(Benazir Nashonuma Programme)

  • 国家マルチセクター栄養プログラム(National Multisectoral Nutrition Programme)

  • SOPRANイニシアチブ

  • パキスタン・韓国栄養センター(Pak-Korea Nutrition Center)

これらの政府プログラムを通じて、母子栄養サービス(Maternal and child nutrition services)の拡充、貧血削減へのアプローチ、さらには家庭への栄養意識の向上が図られています

また、この取り組みは中央政府にとどまらず、各州政府においても以下のような包括的なプログラムとして実施されています

  • 母子保健(Maternal and child health)の推進

  • 学校給食(School feeding)の提供

  • WASH(水・衛生)環境の整備

医療・食料・衛生環境を一体として捉えた、栄養に配慮した幅広いアプローチが展開されている点が特徴です

3. 法的セーフガード:児童婚の規制による人権・健康保護

子どもの健康と福祉を守るためには、医療面からのアプローチだけでなく、社会的・法的な保護が不可欠です。パキスタン政府は人権保護および法的なセーフガードを強化する一環として、大きな法整備を行いました

  • 「2025年 首都圏児童婚規制法(ICT Child Marriage Restraint Act 2025)」の制定

児童婚は、特に少女たちの早期の妊娠・出産による健康被害や、社会的権利の剥奪に直結する深刻な課題です。この法制化により、子どもの福祉や権利を守るための制度的メカニズムがより強固なものとなりました

まとめ

パキスタン経済白書2025-2026が示す「子どもの健康」に関する動向は、予防接種という直接的な医療介入(73%への上昇)から、多セクター連携による栄養改善、そして児童婚規制法という法的なアプローチに至るまで、包括的な前進を示しています

一方で、これらの政策が国内の全地域、特に農村部や困窮層にどこまで浸透しているか、また発育阻害の具体的な減少率など、今後の詳細な評価や進捗が注目されます。

2026年6月10日水曜日

南アジア6カ国におけるリハビリテーション・医療サービスの現状と課題

 今回は、南アジア6カ国(インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、ブータン)における「リハビリテーションを含む医療サービス」の現状について、JICAの国別障害関連情報を参考に共有させていただきます 

各国はそれぞれ独自の行政構造や地理的要因を抱えており、リハビリテーションへのアプローチも「医療モデル」から「社会モデル」、あるいは「地域ベースのリハビリ(CBR: Community Based Rehabilitation)」まで多岐にわたっています 。それぞれの国の特徴を詳しく見ていきます。

各国の現状と特徴

1. インド:包括的制度と専門拠点の整備

インドでは、社会正義エンパワメント省(MSJE: Ministry of Social Justice and Empowerment)が中心となり、医療・社会・教育・職業にまたがる包括的なリハビリ制度が整備されています

  • 特徴: 全国的な専門拠点として「国立リハビリテーション研究所群」(身体、整形外科、視覚、知的、聴覚、重複障害など)が機能しています

  • 構造: 医療リハビリは保健省とも連携していますが、福祉省側が中心を担うため、医療モデルと社会モデルが併存する構造となっています

  • 課題: 州間での格差が大きな課題です

2. スリランカ:医療モデル主導の標準化

スリランカでは、保健省の青年・高齢者・障害者部(YEDD: Youth Elderly and Disabled persons Department)が医療リハビリの中軸を担っています

  • 特徴: YEDDが早期介入や理学療法、CBRの強化などを担当しています 。「2014–2018国家リハビリテーションガイドライン」によって医療リハビリの標準化が進められてきました

  • 構造: サービスは比較的中央集権的であり、医療モデルの色合いが強いのが特徴です

  • 課題: 財政的な制約が今後の課題となっています

3. ネパール:山岳地帯に対応する地域統合型アプローチ

ネパールでは、保健人口省と女性子ども社会福祉省(MOWCSW: Ministry of Women, Children and Social Welfare)がリハビリ業務を分担しています

  • 特徴: 2017年の障害者権利法以降、医療リハビリと地域リハビリ(CBR/CBID: Community Based Inclusive Development)の統合的アプローチが強化されました

  • 構造: 地理的に山岳地帯が多いことから、CBRが制度的に強く重視されています

  • 課題: 地理的要因も絡む地域格差の解消が求められています

4. バングラデシュ:調査と診断の一体化と発達障害支援

バングラデシュでは、社会サービス局(DSS: Department of Social Service)保健・家族福祉省が共同で医療リハビリを実施しています

  • 特徴: 全国障害調査に医師や理学療法士が参加し、診断とリハビリを一体的に扱う体制が構築されています 。また、「神経発達障害保護信託(2013)」により、自閉症や発達障害児の早期療育・医療リハビリが制度化されている点も先進的です

  • 構造: 医療リハビリ自体は比較的発達しています

  • 課題: 都市と農村の格差が非常に大きいという問題を抱えています

5. パキスタン:地方分権による制度の分断

パキスタンでは、国立リハビリテーション医学研究所(NIRM: National Institute of Rehabilitation Medicine)が医療リハビリの中心的な存在です

  • 特徴: CBR(地域ベースのリハビリ)については、NGOが主導する形で広がっています

  • 構造と課題: 2010年の地方分権化に伴い、障害関連政策の管轄が州政府へと移りました 。その結果、州ごとに制度が分裂してしまい、公的医療リハビリの整備の遅れや、統一基準の欠如という構造的な課題に直面しています

6. ブータン:プライマリー・ヘルスケア(PHC)への組み込み

ブータンでは、保健省(MoH: Ministry of Health)の管轄のもと、障害ケアが提供されています

  • 特徴: リハビリサービスは、プライマリー・ヘルスケア(PHC: Primary Health Care)の枠組みの中で基礎的なものとして提供されています 。国勢調査においてワシントングループ質問票を採用するなど、障害の把握については国際基準に準拠しています

  • 構造と課題: 人口規模が小さいため専門的なリハビリ施設は不足していますが、そのぶん学校・地域・家族を巻き込んだ柔軟な支援が重視されています

6カ国の比較まとめ

各国の主担当機関、特徴、および課題を一覧表にまとめました

国名医療リハビリの主担当主な特徴直面している課題
インド社会正義エンパワメント省 + 保健省国立リハビリ研究所が多数あり、制度が最も整備されている州間格差
スリランカ保健省(YEDD)医療モデルが強く、ガイドラインの整備が進む財政制約
ネパール保健人口省 + MOWCSWCBRが制度化されており、山岳地域への対応が進む地域格差
バングラデシュDSS + 保健省医師が参加する全国調査や、発達障害支援が進行都市農村格差
パキスタンNIRM + 州政府地方分権により、各州で制度が分裂傾向にある統一基準の欠如
ブータン保健省PHC中心の基礎的サービスで、小規模ながら柔軟専門リハビリの不足

おわりに

南アジア6カ国の医療リハビリテーションの構造を俯瞰すると、以下のようなグラデーションが見えてきます

  • インド・スリランカ: 制度的な整備が最も進んでいるグループ

  • ネパール・バングラデシュ: CBRと医療の統合・連携を模索しているグループ

  • パキスタン: 地方分権の影響により制度的な分断が見られるケース

  • ブータン: 小規模ではあるものの、PHCを中心とした安定的なコミュニティ支援を行うケース

一言で「南アジア」といっても、それぞれの国が置かれた政治・地理的背景によって、障害者支援のアプローチや課題は大きく異なります 。今後の国際開発や支援のあり方を考える上でも、こうした各国の構造的特徴を理解しておくことが極めて重要だと言えるでしょう

参考文献

インド共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 インド共和国』令和32.

スリランカ民主社会主義共和国

国際協力機構(JICA)スリランカ障害者の就労支援促進プロジェクト専門家チーム(2024)『国別障害関連情報 スリランカ民主社会主義共和国』令和611.

ネパール連邦民主共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ネパール連邦民主共和国』令和32.

バングラデシュ人民共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 バングラデシュ人民共和国』令和32.

パキスタン・イスラム共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 パキスタン・イスラム共和国』令和32.

ブータン王国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ブータン王国』令和32.


教員用・生徒用の防災教育マニュアルの概要

 

前回の記事で紹介したUNESCO発行の教員用・生徒用の防災教育マニュアルについて、概要を紹介します。


1. 教員用マニュアル:学校を「安全の拠点」にするために

教員用の冊子は、先生方が授業でどう教えるかだけでなく、学校全体の「安全管理」をどう主導するか、という視点で書かれています。

  • リスクを見える化する: 学校内外の危険な場所を特定する「学校リスクマップ」の作成方法が詳しく解説されています。

  • 教育の統合: 防災を単なる避難訓練で終わらせず、地理や科学などの既存の教科の中にどう組み込むかというヒントが満載です。

  • 心理的ケア: 災害後の子供たちの心理的なサポート方法についても触れられており、先生が「心の支え」となるための指針が示されています。

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction


2. 生徒用マニュアル:自分と友達を守る「防災リーダー」へ

生徒用の冊子は、イラストや具体的なアクティビティを通して、子供たちが主体的に学べる工夫がされています。

  • 正しい知識を学ぶ: 「ハザード(危険な現象)」と「リスク(潜在的な損失)」の違いなど、防災の基本用語を分かりやすく学べます。

  • アクションを起こす: 家族と一緒に避難袋を用意したり、近所の「脆弱な人(お年寄りや小さなお子さん)」がどこにいるかを確認したりと、具体的な行動を促します。

  • 「能力」を高める: 知識を身につけることで、災害が起きた時にパニックにならず、適切な判断ができる「強さ」を養います。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

学校と地域を守る!UNESCOの防災マニュアル

今回ご紹介するユネスコの防災マニュアルは、単なる災害対策の枠を超え、子どもたちの「就学の継続(教育権の保障)」を支える重要な基盤となるものです。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction

1. 健康を守ることは、学習の機会を守ること

アジア・アフリカの農村部では、一度自然災害が発生すると、衛生環境の悪化から感染症が蔓延し、多くの子どもたちが長期欠席や退学を余儀なくされます。 教員用マニュアルで強調されている「リスクの特定」や「衛生管理を含む備え」は、災害時においても子どもたちの健康被害を最小限に食い止め、学校という学びの場を維持するために不可欠な視点です。

2. 「自らを守る力」がレジリエンス(回復力)を高める

生徒用マニュアルが目指すのは、子どもたちが自らのリスクを正しく理解し、行動できる「主体」へと成長することです。 栄養不足や過酷な環境に置かれやすい地域の子どもたちにとって、身体的な健康を維持するための知識と、災害から身を守るための防災知能(防災リテラシー)は、いわば「生き抜くための両輪」です。自分の身を守る術を知ることは、心理的な安定にもつながり、困難な状況下でも学習を継続する意欲(レジリエンス)を育みます。

3. 学校が地域全体の「健康と安全のハブ」に

このマニュアルが提案するように、学校で学んだ防災や健康の知識を、子どもたちが家庭や地域へと持ち帰るプロセスは非常に重要です。 特に公衆衛生や安全対策が十分でない地域において、学校が「正しい知識の発信源」となることで、地域全体で子どもの健康を守り、結果として誰もが安心して就学できる社会環境が整えられていきます。


「健康」と「安全」は、教育を受けるための絶対的な前提条件です。ユネスコのこのガイドブックをアジア・アフリカの教育現場に普及させることは、単に災害に強い学校を作るだけでなく、「どんな状況下でも子どもの学びを止めない、健康的な教育基盤」を構築するための第一歩となるでしょう。


2026年6月9日火曜日

インドのごみ回収に従事する子どもたち――その健康リスクとインフォーマル労働の実態

 少し古い文献ですが、インドにおける子どもの廃棄物回収労働者の健康リスクに関する文献を紹介します。

1. 背景:オープン・ダンプ(野積み処分場)がもたらす危機

開発途上国では、自治体によるごみの回収率が25〜55%にとどまるケースが少なくありません 。回収されなかった膨大なごみは「オープン・ダンプ」と呼ばれる野積み処分場に投棄され、環境汚染や住民の健康被害を引き起こしています

こうした状況のなか、最も過酷で、かつ社会的に見えにくくなっているのが、ごみの中から換金可能なプラスチックや金属を集めて生計を立てる「ウェスト・ピッカー(廃棄物回収労働者)」と呼ばれる人々です 。なかでも「子どもの労働者」が直面しているリスクは非常に深刻です

2. 子どもの身体を脅かす「健康ハザード」

子どもたちがごみ拾いを行う現場には、大人の想像を超える多面的な危険(ハザード)が潜んでいます

  • 職業的・環境的リスク

    • 感染症の脅威: ごみに含まれる糞便からの経口感染や、生ごみの腐敗による食中毒・胃腸障害のリスクが常にあります

    • 有害物質への暴露: 未分別の医療廃棄物(注射針や包帯)や産業廃棄物(重金属など)に日常的にさらされています

    • 怪我や動物の襲撃: 鋭利な破片による切り傷から破傷風を発症したり、ごみをめぐって野良犬に噛まれ、狂犬病の脅威にさらされたりすることもあります

  • 子どもだからこそ高まる脆弱性

    • 知識の不足: 危険な素材を正しく識別・回避する判断力が大人に比べて未熟です

    • 身体的特徴: 呼吸数が早いため有害ガスを吸い込みやすく、皮膚が薄いため化学物質を吸収しやすい特徴があります 。さらに骨格が未発達な時期に重い荷物を運ぶため、骨格障害のリスクも高まります

3. 調査結果:非労働者の子どもとの比較で見えた「2.5倍の病気リスク」

本論文では、現地のNGOと協力し、バンガロールのインフォーマル定住地に暮らす4〜15歳の子ども100名を対象に、医師による健康診断とインタビューを行いました

社会経済的な背景

廃棄物回収を行う子どもたちの家庭は、同じ地域に暮らす他の家庭と比べても著しく貧しいことが分かりました 親の教育水準が低く、父親の死亡や失業により、母親自身も回収労働をしている割合が非常に高いのが特徴です 。また、他州からの移住者である可能性が高く、地域の公用語(カンナダ語)を話せないといった社会的孤立や、学校への通学率の低さ(中退率の高さ)も浮き彫りになりました

顕著な健康格差

統計分析の結果、住環境や栄養状態の違いを考慮しても、廃棄物回収を行う子どもは、そうでない子どもに比べて2.5倍も病気にかかりやすいことが証明されました

具体的には、以下のような症状が顕著にみられています。

症状・疾患特徴・労働者グループの傾向
回虫などの寄生虫感染労働を行う子どもの40%以上にみられ、非労働者(20%未満)の倍以上。汚染物質や食べ物への接触が原因 。
上気道感染症労働を行う子どもで**20%**を突破。過密な住環境や体力の消耗、ごみからの感染が複合的に影響 。
リンパ節腫脹労働を行う子どもに多く、軽度感染症のほか、結核の疑い事例も存在 。
皮膚・耳の疾患疥癬(かいせん)や中耳炎など、労働者グループにのみ、あるいは明確に多く発症 。


4. 子どもたちの本音と社会的な壁

子どもたちは週7日、毎日平均5時間働き、約10ルピー(当時の通貨価値)の収入を得ていました 。しかし、その労働環境は過酷そのものです。

大半の子どもは手袋をせず、木の棒などでごみを分別しています 。切り傷を負っても、傷口を洗う子はわずか1名で、多くは地面にこすりつけるなどの不衛生な処置しかできていません 。さらに、労働中に警察や地元住民から追い回されたり、女子は性的ハラスメントの恐怖に怯えたりするなど、精神的にも深い傷を負っています

インタビューでは、半数以上の子どもがこの仕事を「悪いこと」と捉えており、「本当は勉強がしたい」「将来もこの仕事を続けたいわけではない」と、本音を漏らしています 。しかし、10代後半(青年期)になると、社会的な悪評(スティグマ)を強く意識しつつも、家庭の経済事情やジェンダーの壁(特に女性は親の反対で辞められないなど)によって、労働から抜け出せない構造が固定化していく実態も確認されました

5. 展望:子どもたちを社会的に救うための3つのアプローチ

この研究は、子どもの廃棄物回収労働が、貧困家庭における過酷な「生存戦略」として定着してしまっている実態を告発しています 。著者のキャロライン・ハントは、この問題を解決するために3段階の対策を提言しています

  1. 短期的な対策(即時的な保護) まずは目の前の危険から守るため、手袋や靴、適切な分別ツールの支給、および破傷風ワクチンの接種を早急に行うこと

  2. 中期的な対策(環境改善) 医療・産業廃棄物の分別・処分体制を徹底し、子どもたちが暮らす居住地域のインフラや生活環境を底上げすること

  3. 長期的な対策(構造的変革) このインフォーマルな労働セクターをフォーマル化(公式化)し、労働者としての権利と保護を与えること 。そして、親(特に母親)の雇用を安定させることで、子どもをごみ拾い労働から完全に解放し、教育の機会(自由)を保障すること

環境問題の裏側には、常に社会の不平等と子どもたちの犠牲が存在しています。単にごみを減らすだけでなく、それを支える人々の雇用環境や、構造的な貧困にアプローチしていくことが、国際開発やグローバル教育の現場において極めて重要な課題であると言えます。

参考文献

Hunt, C. (1996). Child waste pickers in India - the occupation and its health risks. Environment and Urbanization, 8(2), 111-118. 

パキスタン経済白書2025-2026から見る「子どもの健康」

  近年、開発途上国における保健・栄養セクターの動向は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成において重要な焦点となっています。今回は、最新の「 パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026) 」から、特に「子どもの健...