2026年2月2日月曜日

障害児の親の会「カールワーン」の活動①:ワークショップ

これまで、 障害児の親の役割の重要性について投稿してきましたが、今回は、パキスタン北西部に位置するハイバル・パフトゥンハー(KP)州のハリプールで活躍するカールワーン(Karwaan)の活動について、今後数回に渡ってご紹介します。

このイベントでカルワーンは、16歳以上の障害を持つ地域の少女たちを招待しました。そこでは、基本的な問題が特定され、自己管理について議論が行われました。障害を持つ少女たちは、日常生活の課題に対処し、解決するためのより簡単な方法を知ることができました。

女性障害者リーダーによるワークショップ

カールワーン代表のスピーチ

イベントのグループ写真

道すがら、カールワーンメンバーはある女性に出会いました。その女性は二人の娘がいて、一人は制服を着ていて、もう一人は障害(ダウン症)がありました。メンバーは彼女に、一人の娘は制服を着せて学校に通わせているのに、なぜもう一人は家にいるのか聞いて、もう一方の子どもも学校に通わせるよう勧めました。





2026年2月1日日曜日

アジア・アフリカの障害児支援:教育と健康を支える「家族の力」と「新しいつながり」

 アジアやアフリカの国々では、多くの子どもたちが厳しい環境の中で生活していますが、特に障害を持つ子どもたちにとって、学校に通うこと(就学)や心身の健康を維持することは、依然として大きな壁に阻まれています。

今回の記事では、最新の文献レビューや調査結果をもとに、子どもたちの就学と健康を保障するために、「家族」がどのような役割を果たし、どのような変化が求められているのかを探っていきます。

1. 就学と健康を阻む「目に見えない壁」

アジア・アフリカ地域には、世界の約半数の障害児が暮らしているとされていますが、その多くが教育や医療、適切な栄養、そして暴力からの保護という基本的な権利を十分に享受できていません。

  • アクセスの困難さ: アフリカなどでは医療従事者の不足や、病院・学校までの物理的な距離、医療費の負担が大きな障壁となっています。

  • 栄養と感染症: 多くの子供たちが栄養不良や感染症の危険にさらされており、適切な食糧支援や衛生環境の改善が、教育を受けるための「前提条件」としての健康を支える鍵となります。

  • 社会的な偏見: 障害に対する「恥」や「迷信」から、親が子どもを外に出さず、教育の機会を奪ってしまうケースも少なくありません。

2. 「犠牲者」から「変革の主体」へ:親の役割の変化

こうした厳しい状況を変える原動力となっているのが、保護者による集団の力(ペアレント・パワー)です。

  • 教育の土台作り: 障害者本人が声を上げるのが難しい地域でも、親たちが行政や学校に働きかけ、教育や福祉の制度を作るための土台を築いてきました。

  • アドボカシー(権利擁護)の進化: 自分の子どものサービスを求める「個人的な活動」から、地域全体の教育システムを改善しようとする「システム的な活動」へと、親たちの活動は発展しています。

  • 社会モデルへの転換: 障害を「治すべき病気(医学モデル)」と捉えるのではなく、社会の側の仕組みを改善すべきという「社会モデル」を学び、社会変革を目指す親たちが増えています。



3. 家族を支える「ピア・サポート」と「レジリエンス」

障害児の健康と学びを支えるためには、ケアの担い手である家族自身の健康と精神的な安定が不可欠です。

  • 孤立を防ぐ家族会: 同じ悩みを持つ親同士が支え合う「ピア・サポート」は、精神的な安定に大きく寄与し、家族が困難を乗り越える力(レジリエンス)を高めます。

  • 多職種との連携: 家族会は、医師や教師などの専門家と対等なパートナーとして対話するための窓口となり、子ども一人ひとりに最適な支援を届ける役割を果たしています。

4. これからの展望:インクルーシブな未来に向けて

これからのアジア・アフリカにおける支援は、単に「助けてもらう」段階から、地域全体で子どもを育む「新しいつながり」を作る段階へと進む必要があります。

  • 多様な家族への配慮: 経済的に困窮している家庭や、孤立しやすい父親の参加を促すなど、より支援が届きにくい層へのアプローチが求められています。

  • パートナーとしての関係: 親は子どもの「代弁者」としてだけでなく、子ども自身が主体的に声を上げられるようサポートし、共に社会を変えていく「同盟者(アライ)」であることが期待されています。




まとめ

障害があっても、「この子がいてくれて良かった」と胸を張って言える社会。それは、親たちが団結し、地域と柔軟につながりながら、教育と健康という当たり前の権利を勝ち取っていくプロセスそのものです。子どもたちの健康を守り、学びを支える挑戦は、今も世界中で続いています。

アジア太平洋障害者の十年:時代とともに変化する「家族の役割」

 アジア太平洋地域では、障害者の権利向上と社会参加を目指し、10年ごとの長期計画が策定されてきました。その歩みの中で、障害者を支える「家族」に期待される役割や支援の形も大きく変化しています。今回は、第1次から第4次までの各期における家族の役割の変遷をご紹介します。



第1次十年(1993-2002年):リハビリテーションの担い手としての家族

この時期は、地域に根差したリハビリテーション(CBR)の文脈において、家族が中心的な役割を果たすべきとされました 。

専門的な訓練の推奨:家族が適切なケアを行えるよう、専門的な訓練を提供することが推奨されました 。

意識改革と自助グループ:障害児の教育を受ける権利を保護者が理解するための意識啓発や、保護者の会(自助グループ)の形成が重要視されました 。

経済的・精神的サポート:家族全体の貧困を防ぐための経済的支援や、障害児者が地域で孤立しないための精神的サポート役としての役割も期待されていました 。


第2次十年(2003-2012年):権利を主張する「アドボカシー」への進化

第2次では「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」が採択され、家族の役割はより積極的なものへと定義されました 。

意思決定の代弁者:本人が自ら声を上げることが困難な場合、家族が代わって権利やニーズを主張(アドボカシー)し、自立までその活動を継続・強化すべきであるとされました 。

組織化の促進:政府に対し、2005年までに地域単位の親の会を組織し、2010年までにそれらを全国組織へ統合・連携させることが目標として掲げられました 。

中心課題としての位置づけ:7つの優先領域において、「家族・親の団体」は女性障害者とともに中心課題の一つとして明記されました 。


第3次十年(2013-2022年):社会的な権利実現のパートナー

「インチョン戦略」のもと、家族の役割は家庭内ケアの枠を超え、より戦略的なものへと拡大しました 。

多角的なパートナーシップ:家族は「貧困削減のパートナー」「教育の質を高めるパートナー」「政策実施の協力者」と位置づけられました 。

貧困からの脱却:障害者とその家族の貧困を削減することが、インクルーシブな成長に寄与すると論じられました 。

埋没する優先順位への懸念:役割が多岐にわたる一方で、前十年のように「家族」が独立した優先課題として目立たなくなり、他の課題の中に埋もれてしまうことへの懸念も示されました 。


第4次十年(2023-2032年):ライフサイクルに応じた継続的な支援

最新の「ジャカルタ宣言」では、これまでのインチョン戦略等の目標を継承しつつ、新たなアプローチが取られています 。

ライフサイクル・アプローチ:乳幼児期から高齢期まで、各段階に応じた支援体制を強化することが盛り込まれました 。

継続性の維持:宣言内に「家族」に関する直接的な記述は少ないものの、第3次のインチョン戦略を継承・加速させることが再確認されています 。


まとめ

こうして振り返ると、家族の役割は単なる「介護者」から、本人の権利を守る「代弁者」、そして社会を共に変えていく「パートナー」へと発展してきたことがわかります。

それぞれの時代で求められる役割は異なりますが、家族が孤立することなく、社会全体で支える仕組みづくりの重要性は、一貫して変わらぬテーマとなっています。

このように、アジア太平洋地域における障害児の支援体制は、この30年余りで「家庭内でのケア」から「社会全体での権利保障」へと大きく舵を切ってきました

「子どもが健康で、家族が支えられ、社会がそれを保障する」という包括的なアプローチこそが、アジア太平洋地域が目指してきたインクルーシブな社会の核心であると言えるでしょう。

2026年1月31日土曜日

パキスタンにおける環境リスクと子どもの健康:認識調査から見える課題

【大気汚染・水質汚染が子どもに与える深刻なリスク】 

パキスタン、特にラホール近郊ではPM2.5による大気汚染が極めて深刻です 。調査対象となった住民の多くは、この汚染が子どもたちの肺疾患リスクを劇的に高めていると認識しています。成長過程にある子どもの呼吸器系は成人よりも脆弱であり、汚染された空気を吸い続けることは、喘息や慢性的な咳を引き起こすだけでなく、将来的な肺機能の低下を招く大きな懸念材料となっています 。また、安全な飲料水が確保されていない地域では、不衛生な水が子どもたちの免疫力を低下させ、結果として呼吸器感染症を悪化させる一因にもなっています 。



【家庭内における受動喫煙の影響と認識】 

今回の調査では、屋外の公害だけでなく、家庭内での「喫煙」が子どもに与えるリスクについても注視しています。大人が吸うタバコの副流煙は、限られた生活空間の中で子どもの肺に深刻なダメージを与えます。住民の意識調査からは、喫煙と肺疾患の関連性は理解されているものの、子どものいる空間での具体的な禁煙対策や行動の改善には、まだ多くの課題が残されていることが浮き彫りになりました。


【「誰一人取り残さない」健康と教育の保障に向けて】

 本調査の結果は、子どもたちが健康に育ち、教育を受ける権利を守るためには、医療的な支援だけでなく、学校や地域社会を通じた「環境教育」が不可欠であることを示しています 。特に障害のある子どもや、社会経済的に困難な状況にある家庭の子どもたちは、環境悪化の影響をより直接的に受けやすい傾向にあります 。



【本案件における研究】

今後は、これらの環境リスクを軽減するための調査・支援を継続するとともに、保護者や地域住民が「子どもの健康を守るための環境認識」を深めていけるよう、実践的な研究と啓発活動を両輪で進めていくことが重要です 。 

そこで、科研費(国際共同研究加速基金(海外連携研究))パキスタンにおける脆弱層にある子どもの就学を保障する学校安全に関する実証研究(2024年度~2027年度)と合わせて、パキスタン北部のKP州のAbbottabad、Mansehraにおいて調査を実施しています。同調査の詳細については、こちらをご覧ください。


2025年12月15日月曜日

国際開発学会第36回全国大会@広島大学

2025年11月29日から30日に、国際開発学会第36回全国大会が広島大学で開催されました。本研究代表者の高柳妙子氏が、企画セッション(英語)「The role of academic research in ensuring the health and education of children in Asia and Africa in the SDGs era: Possibilities and challenges of school health research(SDGs時代のアジア・アフリカの子どもたちの健康と教育を保障する学術研究の役割:学校保健研究の可能性と課題)」において発表しました。

高柳氏の発表のタイトルは「Exploring Menstrual Hygiene Management (MHM) Among Adolescent Girls, Mothers, and Teachers in the Maasai Community of Kenya(ケニアのマサイ族コミュニティにおける思春期の少女、母親、教師の月経衛生管理(MHM)の調査)」でした。

同セッションへの参加者は10名程度でしたが、内容の濃い質疑応答や議論が行われました。






パキスタン:ゴミ捨て場の悪臭と子どもへの健康被害

 イスラマバード郊外にあるゴミ捨て場には、毎日大量の廃棄物が運ばれてきています。廃棄物管理を担当する首都開発局(CDA: Capital Development Authority)の衛生局職員によれば、毎日約1000トンの廃棄物が発生しています。

毎年増え続ける廃棄物を埋め立てる場所については、専用の埋立地を設置する代わりに、CDAはゴミ捨て場の中継地点の場所を次々と変更し続けています。米国環境保護庁(EPA: United States Environmental Protection Agency)(2020)によれば、中継地点(Transfer Station)は位置的な場所であること、オープンなゴミ捨て場(Open Dumpsite)は避けるべきであることが指摘されています。



また、カラチのマリー河沿いでは、地域住民が、集められた廃棄物の山から発生する刺激臭、粉塵、有毒ガス、大気汚染により日常生活が妨げられているだけでなく、さまざまな健康問題も引き起こされています。

なお、子どもだけでなく、高齢者、持病のある患者は特に影響を受けやすいと指摘されています。継続的な悪臭は精神的ストレス、睡眠障害、生活の質の低下にもつながり、不適切な管理は害虫の発生を助長し、近隣の河川や小川を汚染するリスクもあります。


2025年12月14日日曜日

パキスタン:野菜市場での児童労働

 パキスタンの首都イスラマバード郊外にある野菜市場(サブジー・マンディー)と市場裏にあるダンプサイト(廃棄物処理場)には、多くの子どもたちが青果物販売・手伝いや、有価物の回収(ウェイスト・ピッキング)を行っている様子が見られます。


野菜市場では、地面に直接麻布や厚手のビニールの敷物の上に、通常は売り物にならないような根菜類を並べて売る少年、手押し車(一輪車)で青果物を運ぶ販売もする少年、二輪の屋台で成果物を売る青年、露店で成果物をうる大人の手伝いをする少年から、路上に捨てられた玉ねぎの皮の山の中から、食べられる玉ねぎを探し出す少年、市場にくる客に、買った青果物を入れる麻袋を売る少年や青果物の運搬を手伝う少年など、いろんな仕事をしています。


青果物が入っていた段ボール箱や麻袋を回収して、親分(大人)のところに届ける。1日500ルピー(300円程度)ほどを親分からもらう。

野菜市場の奥でたむろしていた少年たち。通訳が頭をなでようとすると、怖がって手をよけようとした。習慣的に、大人から頭をたたかれていることへの回避行動と感じられた。

手押し車で規格外(房から取れてしまったり、へたが取れて実が見えてしまったり、部分的に黒くなってしまっているもの)のバナナを安値で売る少年。露店で買うよりも1,2割安い。
捨てられた玉ねぎの皮の山から、食べられそうな玉ねぎの実を探す少年二人。

障害児の親の会「カールワーン」の活動①:ワークショップ

これまで、 障害児の親の役割の重要性について投稿してきましたが、今回は、パキスタン北西部に位置するハイバル・パフトゥンハー(KP)州のハリプールで活躍するカールワーン(Karwaan)の活動について、今後数回に渡ってご紹介します。 このイベントでカルワーンは、 16 歳以上の障害...