2026年6月28日日曜日

国際開発学会第27回春季大会@明治学院大学

  2026年6月27日に、国際開発学会第27回春季大会が明治学院大学で開催されました。本研究代表者の高柳妙子氏が座長をつとめる、ラウンドテーブルにおいて研究協力者の池田直人氏をはじめ、アジア諸国で障害児のインクルーシブ教育の実務や研究を行う、磯部陽子氏および堀場浩平氏が発表しました。



W台風が訪れたため、学会が急遽ハイブリッドになり、参加者は約16名(対面12名、オンライン4名)でしたが、様々な視点で質疑応答がなされました。

それぞれの発表は以下の通りです。

モンゴルにおける障害者の就学・就労を支えるインクルーシブ支援システム

-環境整備・啓発・制度化の実践から見えたポイントー

発表者 氏名(所属先名):磯部陽子(コーエイリサーチ&コンサルティング)

学会オンライン対応による、動画での発表。

コメント・応答など

(1) ジョブコーチの支援員が手話通訳者だが、通訳だけでなく、ジョブコーチとしての専門性が必要。また、通訳者が権限を持ってしまうのではという懸念がある。同ポジションには、ろう者の家族がつくことが多い。(JETRO森氏)➡ジョブコーチは利用者の主体性を尊重する研修を受けている。また、モンゴルではジョブコーチが単体の職業として成立するだけの手当が保障されていないため、すでに障害者支援などの職を持っている人がジョブコーチを担っているという事情がある。(堀場)



ネパールにおけるインクルーシブ教育の構造的課題

-通常学級における知的障害児の「実質的包摂」の再検討-

発表者 氏名(所属先名):堀場浩平(国際開発センター、広島大学博士課程)

コメント・応答など

(1) 堀場発表はインクルーシブ教育がストレートには適用できないという主張であり、池田発表は当事者の声だけでなく保護者の声を重視するというものであり、障害学に対する逆説の部分がある。現場では理屈どおりに機能せず、正論である。障害児それぞれの特性に応じてカスタマイズする必要がある。(APU山形氏)

(2) 当事者の問題を指摘したい。教員に障害当事者が含まれていないことを懸念する。ろう児が聴児のみの学級で学ぶことで同じ障害のある児童との機会を失ってしまう。(JETRO森氏)➡発表では割愛したが、事例紹介した学校のうち、難聴の女児のいる学級にはほかにも聴覚障害のある児童が在籍している。また別の事例の学校では、リソースクラスの教員が下肢障害を有している。インクルーシブ教育の妥当性を検討するうえで当事者の問題も重視したい。(堀場)

(3) 西側の理屈で作られている面があるインクルーシブ教育を、別の土壌に持ち込むことに無理があるのではないか。また、インクルーシブ教育が対象としているのは通学できている障害児であり、通学すること自体に困難を抱えている児童もいるのではないか。(山口大麻田氏)➡指摘のとおりだと考える。そうした面を含めて途上国におけるインクルーシブ教育を批判的に捉えなおしたい。(堀場)



●パキスタンにおける インクルーシブ教育推進と保護者の役割

ー障害児の「親の会」への期待と参画に関する事例研究ー

発表者 氏名(所属先名):池田直人(押鐘サイエンスラボ、難民を助ける会)

コメント・応答など

(1) 主体性における、障害児の親という視点の重要性に考えさせられた。(APU山形氏)

(2) 障害者権利条約のパラレルレポートの提出がゼロであることに驚いたとともに、同レポート提出にかかる強化の必要性を感じた。(JETRO森氏)

(3) 様々な障害のある子どもたちの集いについて不思議に感じた。同じ障害のある子どもたちで集まることが大切なのでは?(JETRO森氏)➡ろう学校・児童生徒・保護者とのつなぎ、ろう者団体とのつなぎなども取り組みもあったがうまくいっていない。現状では、障害のある子どもたちというよりも、保護者(母親)の主体性が全面に出ている集いが企画されている。(池田)

(4) セッション終了後の個別議論:障害者の親という視点は、親のレスパイトケアにも深く関連するテーマ。(日本福祉大小國氏)➡レスパイトケアという制度が作れないような国・地域において、非公式な親の会は、自然なレスパイトケアの場となる。(池田)

(5) セッション終了後の個別議論:障害児の親の会へのNGO事業の関与は?(慶応大川口氏)➡NGOのファシリテーションによって、親たちが自ら立ち上げた会であり、NGOとして登録手続きも進んでいる。障害児の親同氏の繋がりは、(限局性学習障害のある子をもつ池田は)身をもって重要と感じている。(池田)


セッションの総括
今回の発表者3名は、実務者としての経験を如何に研究、そして、今後の国際開発事業に貢献できるかという視点で発表がなされ、これに関する有意義な質疑応答と議論が交わされた。

特に、ろう者であり、研究及び実務面で、障害と開発における貢献者である森壮也氏(JETROアジ研)からは、障害当事者の視点で鋭い質問及びコメントがなされた。また、山形辰史氏(APU)浅田玲氏(山口大)からは、インクルーシブ教育の逆説や批判にかかるコメントがなされ、低中所得国におけるインクルーシブ教育を再考する機会が得られた。

セッション及びセッション後の参加者との議論を踏まえると、インクルーシブ教育というテーマでの研究は今後も継続して進めていくべきだと考えている。

2026年6月23日火曜日

スクールバッグの重さ制限:パキスタンKP州、インド、UAEの事例

  今回は、学校安全に深く関係するスクールバッグの重さの規定を紹介します。

パキスタンKP州では、スクールバッグの重さの制限を規定する法律「THE KHYBER PAKHTUNKHWA SCHOOL BAGS (LIMITATION OF WEIGHT) ACT, 2020 (KHYBER PAKHTUNKHWA ACT NO. XLVII OF 2020)」が制定されています。

同様の法律は、隣国インドにおいても同じ2020年に「School Bag Policy, 2020」という名称で策定されています。同政策では、以下のような記述があります。

「子どもや青少年の姿勢の悪さや腰痛の問題は、インド国内外で注目を集めている。科学誌でも頻繁に取り上げられている。以下に、いくつかの論文からの抜粋を挙げる。「通学中の児童における腰痛の一般的な原因の一つが通学カバンである。重いカバンを背負うと、子どもは体を前に傾けてバランスを取ろうとするが、これにより首、肩、背中の筋肉に負担がかかる。また、カバンの着脱が困難になったり、学校でカバンを背負ったまま頻繁に転倒したりすることもある」 (R. Avantika 他, 2013)  7歳から8歳の時期には、後弯姿勢やバランスの取れた姿勢が主流となる。しかし、子供が学校に通い始めると、座っている時間が長くなり、姿勢形成の障害につながる可能性がある。したがって、この時期は「姿勢形成の最初の臨界期」と呼ばれている(Katarzyna Walicka-Cupry 他、2015年)。さまざまな国際機関が、体重に対するランドセルの重さについて、時折推奨を行ってきた。例えば、2009年には、米国作業療法士協会(AOTA)と米国理学療法士協会(APTA)が、生徒の体重の15%(あるいは10%から20%の間)を超える重さのリュックサックを背負わないよう推奨した。さらに2012年には、これが体重の10%に変更された。米国カイロプラクティック協会(ACA)は、リュックサックの重量を子どもの体重の5~10%以内に抑えるよう推奨している。(Katarzyna Walicka-Cupryś, 2015)

Katarzyna Walicka-Cuprys, Renata SkalskaIzdebska, Maciej Rachwa B, and Aleksandra Truszczy Nska. 2015. Influence of the Weight of a School Backpack on Spinal Curvature in the Sagittal Plane of Seven-Year-Old Children, Research Article, Hindawi Publishing Corporation, BioMed Research International Volume, 2005.」

また、アラブ首長国連邦(UAE)にも同様の取り組みが、2024年策定の「SCHOOL POLICY on HEALTH AND SAFETY」 において規定されています。以下の、表2はUAEの規定です。


パキスタンKP州では、以下の表の通り、学年ごとに非常に細かい重さ制限が規定されていることがあわかります。





2026年6月22日月曜日

パキスタン児童労働調査(2026)

 今回の記事では、UNICEFとパキスタンの国家人権委員会(National Commission for Human Rights:NCHR)が今年2026年に発行した児童労働調査(Pakistan: Child Labour Surveys Evidence for Action) について、学校安全という視点での記述に着目します。

以下は、同報告書の原文をそのまま掲載しています。

2026年6月18日木曜日

パキスタン経済白書2025-2026から見る「子どもの健康」

 近年、開発途上国における保健・栄養セクターの動向は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成において重要な焦点となっています。今回は、最新の「パキスタン経済白書 2025-2026(Pakistan Economic Survey 2025-2026)」から、特に「子どもの健康」に着目した重要なデータと取り組みについて解説します

パキスタンにおける子どもの健康をめぐる状況は、予防接種の普及、栄養改善の多角的アプローチ、そして法的保護の強化という3つの側面から、大きな進展を見せています

1. 予防接種の拡大と死亡率の低下

近年のパキスタンにおける健康・栄養セクターの最も顕著な成果の一つが、予防接種率の向上です

  • 予防接種率(Immunization coverage)の上昇: 近年、予防接種率は73%にまで上昇しました

  • 死亡率の低下: 予防接種の拡大に伴い、生命の危機に瀕しやすい新生児死亡率(Neonatal mortality rate)および乳児死亡率(Infant mortality rate)の低下という明確な成果が見られています

基礎的な医療アクセスの改善が、子どもの生存率の向上に直結していることがデータから伺えます

2. 多角的な「母子栄養サービス」の強化

子どもたちの健やかな成長を阻む大きな課題である「発育阻害(Stunting)」、微量栄養素の欠乏、そして食料不安に対し、パキスタン政府は複数のセクターが連動した強力な栄養プログラムを継続しています

連邦政府主導の具体的なプログラムとしては、以下のようなイニシアチブが強化されています

  • ベナジール・ナショヌマ・プログラム(Benazir Nashonuma Programme)

  • 国家マルチセクター栄養プログラム(National Multisectoral Nutrition Programme)

  • SOPRANイニシアチブ

  • パキスタン・韓国栄養センター(Pak-Korea Nutrition Center)

これらの政府プログラムを通じて、母子栄養サービス(Maternal and child nutrition services)の拡充、貧血削減へのアプローチ、さらには家庭への栄養意識の向上が図られています

また、この取り組みは中央政府にとどまらず、各州政府においても以下のような包括的なプログラムとして実施されています

  • 母子保健(Maternal and child health)の推進

  • 学校給食(School feeding)の提供

  • WASH(水・衛生)環境の整備

医療・食料・衛生環境を一体として捉えた、栄養に配慮した幅広いアプローチが展開されている点が特徴です

3. 法的セーフガード:児童婚の規制による人権・健康保護

子どもの健康と福祉を守るためには、医療面からのアプローチだけでなく、社会的・法的な保護が不可欠です。パキスタン政府は人権保護および法的なセーフガードを強化する一環として、大きな法整備を行いました

  • 「2025年 首都圏児童婚規制法(ICT Child Marriage Restraint Act 2025)」の制定

児童婚は、特に少女たちの早期の妊娠・出産による健康被害や、社会的権利の剥奪に直結する深刻な課題です。この法制化により、子どもの福祉や権利を守るための制度的メカニズムがより強固なものとなりました

まとめ

パキスタン経済白書2025-2026が示す「子どもの健康」に関する動向は、予防接種という直接的な医療介入(73%への上昇)から、多セクター連携による栄養改善、そして児童婚規制法という法的なアプローチに至るまで、包括的な前進を示しています

一方で、これらの政策が国内の全地域、特に農村部や困窮層にどこまで浸透しているか、また発育阻害の具体的な減少率など、今後の詳細な評価や進捗が注目されます。

2026年6月10日水曜日

南アジア6カ国におけるリハビリテーション・医療サービスの現状と課題

 今回は、南アジア6カ国(インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、パキスタン、ブータン)における「リハビリテーションを含む医療サービス」の現状について、JICAの国別障害関連情報を参考に共有させていただきます 

各国はそれぞれ独自の行政構造や地理的要因を抱えており、リハビリテーションへのアプローチも「医療モデル」から「社会モデル」、あるいは「地域ベースのリハビリ(CBR: Community Based Rehabilitation)」まで多岐にわたっています 。それぞれの国の特徴を詳しく見ていきます。

各国の現状と特徴

1. インド:包括的制度と専門拠点の整備

インドでは、社会正義エンパワメント省(MSJE: Ministry of Social Justice and Empowerment)が中心となり、医療・社会・教育・職業にまたがる包括的なリハビリ制度が整備されています

  • 特徴: 全国的な専門拠点として「国立リハビリテーション研究所群」(身体、整形外科、視覚、知的、聴覚、重複障害など)が機能しています

  • 構造: 医療リハビリは保健省とも連携していますが、福祉省側が中心を担うため、医療モデルと社会モデルが併存する構造となっています

  • 課題: 州間での格差が大きな課題です

2. スリランカ:医療モデル主導の標準化

スリランカでは、保健省の青年・高齢者・障害者部(YEDD: Youth Elderly and Disabled persons Department)が医療リハビリの中軸を担っています

  • 特徴: YEDDが早期介入や理学療法、CBRの強化などを担当しています 。「2014–2018国家リハビリテーションガイドライン」によって医療リハビリの標準化が進められてきました

  • 構造: サービスは比較的中央集権的であり、医療モデルの色合いが強いのが特徴です

  • 課題: 財政的な制約が今後の課題となっています

3. ネパール:山岳地帯に対応する地域統合型アプローチ

ネパールでは、保健人口省と女性子ども社会福祉省(MOWCSW: Ministry of Women, Children and Social Welfare)がリハビリ業務を分担しています

  • 特徴: 2017年の障害者権利法以降、医療リハビリと地域リハビリ(CBR/CBID: Community Based Inclusive Development)の統合的アプローチが強化されました

  • 構造: 地理的に山岳地帯が多いことから、CBRが制度的に強く重視されています

  • 課題: 地理的要因も絡む地域格差の解消が求められています

4. バングラデシュ:調査と診断の一体化と発達障害支援

バングラデシュでは、社会サービス局(DSS: Department of Social Service)保健・家族福祉省が共同で医療リハビリを実施しています

  • 特徴: 全国障害調査に医師や理学療法士が参加し、診断とリハビリを一体的に扱う体制が構築されています 。また、「神経発達障害保護信託(2013)」により、自閉症や発達障害児の早期療育・医療リハビリが制度化されている点も先進的です

  • 構造: 医療リハビリ自体は比較的発達しています

  • 課題: 都市と農村の格差が非常に大きいという問題を抱えています

5. パキスタン:地方分権による制度の分断

パキスタンでは、国立リハビリテーション医学研究所(NIRM: National Institute of Rehabilitation Medicine)が医療リハビリの中心的な存在です

  • 特徴: CBR(地域ベースのリハビリ)については、NGOが主導する形で広がっています

  • 構造と課題: 2010年の地方分権化に伴い、障害関連政策の管轄が州政府へと移りました 。その結果、州ごとに制度が分裂してしまい、公的医療リハビリの整備の遅れや、統一基準の欠如という構造的な課題に直面しています

6. ブータン:プライマリー・ヘルスケア(PHC)への組み込み

ブータンでは、保健省(MoH: Ministry of Health)の管轄のもと、障害ケアが提供されています

  • 特徴: リハビリサービスは、プライマリー・ヘルスケア(PHC: Primary Health Care)の枠組みの中で基礎的なものとして提供されています 。国勢調査においてワシントングループ質問票を採用するなど、障害の把握については国際基準に準拠しています

  • 構造と課題: 人口規模が小さいため専門的なリハビリ施設は不足していますが、そのぶん学校・地域・家族を巻き込んだ柔軟な支援が重視されています

6カ国の比較まとめ

各国の主担当機関、特徴、および課題を一覧表にまとめました

国名医療リハビリの主担当主な特徴直面している課題
インド社会正義エンパワメント省 + 保健省国立リハビリ研究所が多数あり、制度が最も整備されている州間格差
スリランカ保健省(YEDD)医療モデルが強く、ガイドラインの整備が進む財政制約
ネパール保健人口省 + MOWCSWCBRが制度化されており、山岳地域への対応が進む地域格差
バングラデシュDSS + 保健省医師が参加する全国調査や、発達障害支援が進行都市農村格差
パキスタンNIRM + 州政府地方分権により、各州で制度が分裂傾向にある統一基準の欠如
ブータン保健省PHC中心の基礎的サービスで、小規模ながら柔軟専門リハビリの不足

おわりに

南アジア6カ国の医療リハビリテーションの構造を俯瞰すると、以下のようなグラデーションが見えてきます

  • インド・スリランカ: 制度的な整備が最も進んでいるグループ

  • ネパール・バングラデシュ: CBRと医療の統合・連携を模索しているグループ

  • パキスタン: 地方分権の影響により制度的な分断が見られるケース

  • ブータン: 小規模ではあるものの、PHCを中心とした安定的なコミュニティ支援を行うケース

一言で「南アジア」といっても、それぞれの国が置かれた政治・地理的背景によって、障害者支援のアプローチや課題は大きく異なります 。今後の国際開発や支援のあり方を考える上でも、こうした各国の構造的特徴を理解しておくことが極めて重要だと言えるでしょう

参考文献

インド共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 インド共和国』令和32.

スリランカ民主社会主義共和国

国際協力機構(JICA)スリランカ障害者の就労支援促進プロジェクト専門家チーム(2024)『国別障害関連情報 スリランカ民主社会主義共和国』令和611.

ネパール連邦民主共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ネパール連邦民主共和国』令和32.

バングラデシュ人民共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 バングラデシュ人民共和国』令和32.

パキスタン・イスラム共和国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 パキスタン・イスラム共和国』令和32.

ブータン王国

国際協力機構(JICA)・株式会社国際開発センター・株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング(2021)『国別障害関連情報 ブータン王国』令和32.


教員用・生徒用の防災教育マニュアルの概要

 

前回の記事で紹介したUNESCO発行の教員用・生徒用の防災教育マニュアルについて、概要を紹介します。


1. 教員用マニュアル:学校を「安全の拠点」にするために

教員用の冊子は、先生方が授業でどう教えるかだけでなく、学校全体の「安全管理」をどう主導するか、という視点で書かれています。

  • リスクを見える化する: 学校内外の危険な場所を特定する「学校リスクマップ」の作成方法が詳しく解説されています。

  • 教育の統合: 防災を単なる避難訓練で終わらせず、地理や科学などの既存の教科の中にどう組み込むかというヒントが満載です。

  • 心理的ケア: 災害後の子供たちの心理的なサポート方法についても触れられており、先生が「心の支え」となるための指針が示されています。

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction


2. 生徒用マニュアル:自分と友達を守る「防災リーダー」へ

生徒用の冊子は、イラストや具体的なアクティビティを通して、子供たちが主体的に学べる工夫がされています。

  • 正しい知識を学ぶ: 「ハザード(危険な現象)」と「リスク(潜在的な損失)」の違いなど、防災の基本用語を分かりやすく学べます。

  • アクションを起こす: 家族と一緒に避難袋を用意したり、近所の「脆弱な人(お年寄りや小さなお子さん)」がどこにいるかを確認したりと、具体的な行動を促します。

  • 「能力」を高める: 知識を身につけることで、災害が起きた時にパニックにならず、適切な判断ができる「強さ」を養います。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

学校と地域を守る!UNESCOの防災マニュアル

今回ご紹介するユネスコの防災マニュアルは、単なる災害対策の枠を超え、子どもたちの「就学の継続(教育権の保障)」を支える重要な基盤となるものです。

日本語版:災害リスク軽減・教員用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

日本語版:災害リスク軽減・生徒用マニュアルー安全確保と十分な備えに向けて-

英語版:Stay safe and be prepared: a teacher's guide to disaster risk reduction

1. 健康を守ることは、学習の機会を守ること

アジア・アフリカの農村部では、一度自然災害が発生すると、衛生環境の悪化から感染症が蔓延し、多くの子どもたちが長期欠席や退学を余儀なくされます。 教員用マニュアルで強調されている「リスクの特定」や「衛生管理を含む備え」は、災害時においても子どもたちの健康被害を最小限に食い止め、学校という学びの場を維持するために不可欠な視点です。

2. 「自らを守る力」がレジリエンス(回復力)を高める

生徒用マニュアルが目指すのは、子どもたちが自らのリスクを正しく理解し、行動できる「主体」へと成長することです。 栄養不足や過酷な環境に置かれやすい地域の子どもたちにとって、身体的な健康を維持するための知識と、災害から身を守るための防災知能(防災リテラシー)は、いわば「生き抜くための両輪」です。自分の身を守る術を知ることは、心理的な安定にもつながり、困難な状況下でも学習を継続する意欲(レジリエンス)を育みます。

3. 学校が地域全体の「健康と安全のハブ」に

このマニュアルが提案するように、学校で学んだ防災や健康の知識を、子どもたちが家庭や地域へと持ち帰るプロセスは非常に重要です。 特に公衆衛生や安全対策が十分でない地域において、学校が「正しい知識の発信源」となることで、地域全体で子どもの健康を守り、結果として誰もが安心して就学できる社会環境が整えられていきます。


「健康」と「安全」は、教育を受けるための絶対的な前提条件です。ユネスコのこのガイドブックをアジア・アフリカの教育現場に普及させることは、単に災害に強い学校を作るだけでなく、「どんな状況下でも子どもの学びを止めない、健康的な教育基盤」を構築するための第一歩となるでしょう。


国際開発学会第27回春季大会@明治学院大学

   2026年6月27日に、国際開発学会第27回春季大会が明治学院大学で開催されました。本研究代表者の高柳妙子氏が座長をつとめる、ラウンドテーブルにおいて研究協力者の池田直人氏をはじめ、アジア諸国で障害児のインクルーシブ教育の実務や研究を行う、磯部陽子氏および堀場浩平氏が発表し...