アジア太平洋地域では、障害者の権利向上と社会参加を目指し、10年ごとの長期計画が策定されてきました。その歩みの中で、障害者を支える「家族」に期待される役割や支援の形も大きく変化しています。今回は、第1次から第4次までの各期における家族の役割の変遷をご紹介します。
第1次十年(1993-2002年):リハビリテーションの担い手としての家族
この時期は、地域に根差したリハビリテーション(CBR)の文脈において、家族が中心的な役割を果たすべきとされました 。
専門的な訓練の推奨:家族が適切なケアを行えるよう、専門的な訓練を提供することが推奨されました 。
意識改革と自助グループ:障害児の教育を受ける権利を保護者が理解するための意識啓発や、保護者の会(自助グループ)の形成が重要視されました 。
経済的・精神的サポート:家族全体の貧困を防ぐための経済的支援や、障害児者が地域で孤立しないための精神的サポート役としての役割も期待されていました 。
第2次十年(2003-2012年):権利を主張する「アドボカシー」への進化
第2次では「びわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」が採択され、家族の役割はより積極的なものへと定義されました 。
意思決定の代弁者:本人が自ら声を上げることが困難な場合、家族が代わって権利やニーズを主張(アドボカシー)し、自立までその活動を継続・強化すべきであるとされました 。
組織化の促進:政府に対し、2005年までに地域単位の親の会を組織し、2010年までにそれらを全国組織へ統合・連携させることが目標として掲げられました 。
中心課題としての位置づけ:7つの優先領域において、「家族・親の団体」は女性障害者とともに中心課題の一つとして明記されました 。
第3次十年(2013-2022年):社会的な権利実現のパートナー
「インチョン戦略」のもと、家族の役割は家庭内ケアの枠を超え、より戦略的なものへと拡大しました 。
多角的なパートナーシップ:家族は「貧困削減のパートナー」「教育の質を高めるパートナー」「政策実施の協力者」と位置づけられました 。
貧困からの脱却:障害者とその家族の貧困を削減することが、インクルーシブな成長に寄与すると論じられました 。
埋没する優先順位への懸念:役割が多岐にわたる一方で、前十年のように「家族」が独立した優先課題として目立たなくなり、他の課題の中に埋もれてしまうことへの懸念も示されました 。
第4次十年(2023-2032年):ライフサイクルに応じた継続的な支援
最新の「ジャカルタ宣言」では、これまでのインチョン戦略等の目標を継承しつつ、新たなアプローチが取られています 。
ライフサイクル・アプローチ:乳幼児期から高齢期まで、各段階に応じた支援体制を強化することが盛り込まれました 。
継続性の維持:宣言内に「家族」に関する直接的な記述は少ないものの、第3次のインチョン戦略を継承・加速させることが再確認されています 。
まとめ
こうして振り返ると、家族の役割は単なる「介護者」から、本人の権利を守る「代弁者」、そして社会を共に変えていく「パートナー」へと発展してきたことがわかります。
それぞれの時代で求められる役割は異なりますが、家族が孤立することなく、社会全体で支える仕組みづくりの重要性は、一貫して変わらぬテーマとなっています。
このように、アジア太平洋地域における障害児の支援体制は、この30年余りで「家庭内でのケア」から「社会全体での権利保障」へと大きく舵を切ってきました 。
「子どもが健康で、家族が支えられ、社会がそれを保障する」という包括的なアプローチこそが、アジア太平洋地域が目指してきたインクルーシブな社会の核心であると言えるでしょう。