本研究メンバーが国際開発学会(2025年6月21日開催)ラウンドテーブルにて発表しました。
テーマは以下です。
「アジアの脆弱層における子どもたちの教育とウエルビーング」
座長、企画責任者、コメンテーター、討論者として高柳妙子氏(東京女子大学)が兼務し、佐々木俊介氏(早稲田大学)、池田直人氏(難民を助ける会)が発表者として登壇しました。
セッションの冒頭に高柳氏から以下の説明がありました。
SDGsのスローガンは、「誰一人とり残さない」である。特に、目標4:質の高い教育をみんなに、とともに、低中途上国の子どもに焦点を当てた場合、様々な問題があります。当事者主導による学校安全教育政策、管理体制、学校と地域の協働連携活動等の実態を把握する必要があるが、学術的に明らかになっていません。今回は、脆弱層における子どもたちの教育とウエルビーングについて調査・研究を実施する研究チームメンバーが、それぞれの事例を発表します。最初に、インドネシアの事例、次にパキスタンの事例についてです。
詳細は以下の通りです。
①発表者:佐々木俊介
タイトル:インフォーマル・リサクルにおけるケガのリスクと移民労働者が抱える保健衛生の課題~インドネシア共和国バンタル・グバンを事例に~
質疑応答、コメント:
-Puskesmusがウェイスト・ピッカーに使われない理由をもう少し詳しく教えていただきたい。ぜひ、Puskesmusでも聞取りをされて位はいかがでしょうか。(国立社会保障・人口問題研究所、林氏)
➡返答:保険制度が変わっている最中であること、そもそもスラム街ではPuskesmusに行こうという発想がないこと、利用する気がないということが挙げられる。今後、Puskesmusへの訪問と聞取りは検討したい。
-廃棄物処理の効果は?子どもの働きは?(東京大学、関谷氏)
➡返答:ウェイスト・ピッカーによってリサイクルできているのは全体の廃棄物の2%であり、生ごみを除けば6.6%、プラスチック系俳句物については13.4%をリサイクルできており、それなりに貢献している。ただし、環境負荷が高いリサイクル方法であり、環境汚染を予防しているかとは言えない。家計を支える子もおり、平均すると収入は家計収入の30%になっている。しかし、世帯内における労働者の人数にかかわらず平均世帯収入は大きな変化をしないため、子どもが働き労働者が3人居る世帯では、家計収入に対するそれぞれの寄与が30%程度になっている可能性が高い。
②発表者:池田直人
質疑応答、コメント:
-モンゴル・スリランカのOOSC(Out of School Children)に関するJICA事業においては、就学の課題は、社会的な理由ではなく、物理的な理由が挙げられており、今回の発表内容とは違いがみられる。教育の質が下がるという理由で、IE学校に入ってほしくないという親、教員がいた。他方、過去の研究においては学力には影響はないとされている。解決策としてどう考えられるか。(早稲田大学、黒田氏)
➡返答:物理的な要因により学校に通えないという事例も確かに存在する。対象地のアボタバード、ハリプールでは、日本の県レベルの人口でありながら、公立学校が1000校以上あり、同じ数の私立学校、さらにはマドラッサー(宗教学校)やノンフォーマル教育学校も存在する。つまり、学校が近くにあるということであり、通学における物理的な問題は少ない。通えないという問題は、受け入れてくれる学校が遠くにしかなかったり、高学年の兄・姉が通う遠い中学校の近くにある小学校にいっしょに通わせようとするという場合もある。
-出生率の地域差はどのような状況か。(国立社会保障・人口問題研究所、林氏)
➡返答:人口ピラミッドは低年齢で広がり度合いが小さくなっている。20年以上前に、イスラマバードでは1夫婦に子どもは2人という状況が見られたが、地方、例えばKP州の仕事の同僚は子どもが10人いた。バローチスターン州などでは子が多く、国全体として一人の女性が出産する子の数が3,4名となっている状況がある。
-パキスタン独特の障害の種類がなにかあるのか。いとこ婚などが原因となっているのか。(林氏)
➡返答:過去のJICA事業で実施した調査では、障害者1500名、非障害者5000名を対象として、対象者の親がいとこ婚であるかどうか聞取りしたが、ほとんど差が見られず、両者とも65%程度だった。他方、ある種の障害、例えば、筋ジストロフィーや聴覚障害の中には、いとこ婚により発生率が高いという事例が見られた。また、ポリオの発症がある世界で2か国のうちの一つであり、調査では年に数ケースと言われても、実際にはもっと多いのではという話もある。
-父親の役割は。(林氏)
➡返答:親の会の代表が母親であり、メンバーに母親が多いため、同じ会の父親と意見が衝突することもある点、AAR事業がファシリテートする研修や会議は平日の日中のため、仕事にでている父親が参加できない時間帯であることなどの理由もあり、父親の積極的な参加がない。ただし、父親が通勤時に子どもを学校に送ったり、同地で男性の職業で多いドライバーなどは自由な時間を使えるため、子どもの送迎時間をとることができるというケースも散見される。
-障害者に対する政府による社会保障はあるのか。社会福祉師などはいるのか。(林氏)
➡返答:ベナジール・インカム・サポート・プログラムという、障害児者に対しては補装具や給付金を提供する事業があるが、課題として、このサービスを受けるための条件となっている障害者証の入手において、申請を拒否されるケースが多いことがAAR Japan事業で判明した。この解決のために、UNICEFが実施する児童保護プロジェクトと連携している。
-障害児の親の会はもともと存在していて、AARがこれを強化したのか(東京大学、関谷氏)
➡返答:存在していなかった。障害児と親たちの中には、家族・親族・地域に支えられている場合、支えられていない場合が混在しており、保護者間にはとくにつながりがなかった。障害児の家族の団体は、20年以上前からその必要性が訴えられており、パキスタンでの自身のJICA事業での経験を踏まえて、AAR Japanのインクルーシブ教育事業の教員研修などに加えて、障害児の親の会の形成支援と強化を盛り込んだ。