近年、国際協力やジェンダー平等の文脈で「SRHR(Sexual and Reproductive Health Rights:性と生殖に関する健康と権利)」という言葉を耳にする機会が増えています。しかし、「具体的にどのような権利なのか」「なぜこれほど世界で叫ばれているのか」について、ご紹介します。
SRHRとは?:2つの重要な柱
SRHRの概念は、大きく「健康(Health)」と「権利(Rights)」の2つの柱に分けることができます。
性と生殖に関する健康(Sexual and Reproductive Health): 性や子どもを産むことに関して、単に病気がないということではなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好で満たされた状態にあることを指します。
性と生殖に関する権利(Sexual and Reproductive Rights): すべての人が、他からの強制や差別、暴力を受けることなく、自分の性や出産に関する事柄(いつ、誰と、何人子どもを持つか、あるいは持たないかなど)を、自分自身で自由に決定できる権利を指します。
つまり、SRHRとは「自分の身体に関するすべてのことを、自分自身の意思で決められ、かつ安全に医療やケアを受けられる権利」の総称なのです。
歴史的な背景:1994年「カイロ会議」での誕生
この概念が世界的に確立されたのは、1994年にエジプトのカイロで開催された国際人口開発会議(ICPD)です。
それまでの世界の人口政策は、「国や社会のために人口を増やす、あるいは減らす」という、国家主導のコントロールが主流でした。しかし、このカイロ会議において、「人口問題の中心にあるのは国ではなく、一人ひとりの人間の権利(人間の安全保障)と女性のエンパワメントである」という大転換が起こりました。
この会議で採択された「行動計画」にリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(当時はSRHRの前身となる言葉)が明記され、世界共通の目標となりました。
現代における位置づけ:SDGs(持続可能な開発目標)とのつながり
カイロ会議から30年以上が経過した現代でも、SRHRは国際社会の最重要課題の一つです。2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の中にも、明確に組み込まれています。
具体的には、以下の2つの目標に深く関わっています。
目標3「すべての人に健康と福祉を」: ターゲット3.7において、家族計画や情報、教育を含む「性と生殖に関するヘルスケアサービス」への普遍的なアクセスを確保することが掲げられています。
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」: ターゲット5.6において、国際的な合意(カイロ会議の行動計画など)に基づき、「性と生殖に関する健康および権利」への普遍的なアクセスを保証することが定められています。
SRHRの達成度を測るためのグローバルな指標として、女性の自己決定権の割合や、近代的な家族計画(避妊法)の充足率などが、国連によって毎年追跡調査されています。
なぜ、いまSRHRが必要なのか?
SRHRが守られていない社会では、望まない妊娠、安全ではない不法な中絶、性感染症の拡大、そして若すぎる結婚(児童婚)などが多発し、多くの女性が命を落としたり、教育や経済的自立の機会を奪われたりします。
逆に言えば、女性が自分の身体についての決定権を持つことは、貧困からの脱却や経済発展、そして真のジェンダー平等を実現するための「土台(基礎インフラ)」となるのです。
では、世界の中で特に人口動態の激しい「南アジア」の国々では、このSRHRは現在どこまで達成されているのでしょうか?
次の記事では、国連人口基金(UNFPA)の最新データを紐解きながら、パキスタン、インド、バングラデシュの3カ国が抱えるリアルな現状と課題に迫ります。
参考文献・ウェブサイト
内閣府男女共同参画局, 第4回世界女性会議 行動綱領, 第2章 世界的枠組みhttps://www.gender.go.jp/international/int_standard/int_4th_kodo/chapter2.html
UNFPA(国連人口基金)駐日事務所「カイロ会議(ICPD)とは」
国際人口開発会議については以下。
ICPD - International Conference on Population and Development
ICPD レビュー(英語):ICPD - ICPD Beyond 2014 review process
ICPD行動計画報告書(英語):Framework of Actions for the follow-up to the Programme of Action of the International Conference on Population and Development
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