パキスタンの一部地域では、古くから伝統的な民間療法が生活に深く根付いています。しかし、その中には科学的根拠が乏しく、特に乳幼児に対して重大な健康被害を及ぼすリスクを孕んでいるものも少なくありません。
本日は、2021年に『Pakistan Pediatric Journal』に掲載された文献をもとに、子どもに対する「ケシ(ポピー)」の誤用実態について詳しく掘り下げます
1. 調査の背景と目的
この研究は、パキスタンのKP州マルダーンにおいて、0歳から12歳の子どもを持つ500世帯(都市部250世帯、農村部250世帯)を対象に、2019年8月から2020年1月にかけて実施されました
主な目的は、子どもの咳、発熱、あるいは激しい泣き声を鎮めるための手段として、家庭内でどの程度ケシが利用されているかを定量的に評価することです
2. 浮き彫りになった衝撃の利用実態
調査の結果、現代においてもケシの利用が非常に一般的であることが明らかになりました
地域による大きな格差: 都市部での利用率が37.2%であったのに対し、農村部では90.4%という極めて高い割合に達していました
。 主な利用目的: 咳の治療(46.7%)が最も多く、次いで「泣いている子どもをなだめる(寝かしつける)」ため(26.6%)に利用されています
。 入手経路: 驚くべきことに、回答者の74.6%が地元のハーブ店(Pansaar stores)で容易に購入していました
。 調理方法: ケシの実(さや)を水で煮出す(61.7%)、あるいは紅茶と一緒に煮出す方法が一般的です
。
3. 「安全」という誤った信念
この問題の深刻さは、保護者の認識不足にあります。
回答者の66.6%が「ケシは有用である」と回答しています
。 さらに63.8%が「副作用はない」と信じていました
。 中には、糖尿病や心疾患を予防・治療できるという医学的根拠のない誤解も存在しています
。
4. 子どもへの利用に関する考察とリスク
子ども、特に乳幼児へのケシ利用は、極めて危険な行為です。
薬理的リスク
ケシにはモルヒネやコデインといった強力な麻薬成分が含まれています
呼吸抑制(呼吸が浅くなる、または止まる)
瞳孔収縮
意識不明
潜在的な死亡リスク
本調査では、親戚や近隣でケシ利用が原因と思われる子どもの死亡事例を知っているという回答が1.2%存在しました
常用薬との相互作用
また、心疾患への誤解から利用される場合、ワルファリンなどの常用薬と相互作用を起こし、かえって心不全のリスクを高める危険性も指摘されています
結論と提言
研究チームは、この現状を「危険なハーブの広範な誤用」と断じ、以下の2点を強く推奨しています
公的な規制: 一般向けの店舗でのケシ販売を厳格に禁止すること
。 啓発キャンペーン: 民間療法の危険性を正しく伝え、不適切な利用を止めるための教育を行うこと
。
伝統や文化は尊重されるべきですが、子どもの命に関わる問題においては、科学的なデータに基づいた介入と教育が急務であると言えます。
参考文献
Akram, S., Rehman, A., & Khan, M. A. (2021). A cross-sectional survey of trend of poppy use as folk remedy for children. Pakistan Pediatric Journal, 45(1), 63-68.
0 件のコメント:
コメントを投稿