今回の記事では、パキスタンのジェンダー平等や女性の権利をマクロな視点から理解する上で欠かせない、国連の女子差別撤廃委員会(CEDAW)による総括所見(2020年)についてご紹介します。
パキスタンは1996年に女子差別撤廃条約を批准していますが、国連からはどのような評価を受け、どのような課題を突きつけられているのでしょうか。2020年に公表された「第5回定期報告書に対する総括所見(CEDAW/C/PAK/CO/5)」の重要なポイントを整理し、現在の改革へのつながりを考えます
1. 国連が評価したパキスタンの「前進」
まず、国連の委員会はパキスタン政府が近年進めてきた特定の分野における法整備や制度改革について、肯定的な評価を与えています
暴力や犯罪に対する厳罰化: 2016年の「名誉犯罪」や「レイプ」に関する刑事法改正、そして2018年の「酸攻撃(アシッド・アタック)制限法」など、女性を狙った極めて凄惨な犯罪に対する法的処罰が強化されたことは、大きな一歩として歓迎されました
。 社会的弱者の権利擁護: 性自認の自己決定権を認め、差別を禁止する「トランスジェンダー保護法(2018年)」の制定は、国際的にも先進的な取り組みとして注目されました
。 女性の政治参加促進: 有権者登録や投票への女性の公平なアクセスを保障するための「選挙法(2017年)」の制定も評価されています
。
2. 依然として残る「深刻な懸念」と勧告
一方で、総括所見の多くは、条約の理念と実態の間に依然として横たわる「深い溝」への懸念に割かれています
① 差別的な法律と「並行する司法制度」
婚姻年齢の男女不平等: 法定の最低婚姻年齢が男性は18歳であるのに対し、女性が「16歳」に据え置かれている点が懸念されています
。委員会は、例外なく男女ともに「18歳未満の婚姻を完全に禁止」するよう強く求めています 。 地域社会の伝統的慣習: 「ジルガ(長老会議)」などの非公式な慣習的司法が、時として女性への差別を助長していると指摘されました
。公式な司法 remedies(救済手続き)を優先させる仕組みづくりが必要です 。
② ジェンダーに基づく暴力(GBV)
「夫婦間レイプ」の死角: 2016年のレイプ関連法において、夫婦間の同意のない性交渉(夫婦間レイプ)が犯罪として明確に規定されていない点が強く指摘されました
。あらゆる形態の暴力を犯罪化するための法改正が求められています 。 支援体制の不足: DV被害から逃れてきた女性を受け入れるシェルター(駆け込み寺)の数やキャパシティが、国全体で圧倒的に不足している点も問題視されています
。
③ 雇用と経済的自立における「二重の壁」
34%に達する賃金格差: パキスタンのジェンダー間の賃金格差は34%にのぼり、これは世界平均の2倍以上という極めて深刻な数値です
。 労働法の対象外となる女性たち: 女性の労働参加率自体が23.9%と低く、その多くが農業や家内労働といった「インフォーマル(非公式)経済」に従事しているため、労働法や社会保障の恩恵を受けられていません
。
④ 性と生殖に関する健康と権利(SRHR)
高い妊産婦死亡率と中絶規制: 妊産婦死亡率の高さに加え、避妊法へのアクセス制限や、非常に厳格な中絶規制が指摘されました
。不法な「安全でない中絶」に追い込まれる女性が後を絶たないため、強姦や近親相姦、母体の健康・命に関わる場合の中絶の脱犯罪化や、適切なケアサービスを保障するよう勧告されています 。
まとめ:国際基準と現実のジレンマ
国連によるこれらの勧告は、パキスタンが真のジェンダー平等とSRHRを確立する上で避けて通れない「チェックリスト」だと言えます
参考文献・ウェブサイト
CEDAW(女子差別撤廃委員会)総括所見 原文
Committee on the Elimination of Discrimination against Women,Concluding observations on the fifth periodic report of Pakistan, CEDAW/C/PAK/CO/5, 10 March 2020.
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